202204.16

202204.10

【寄稿】「まれびと」としてのソノノチ/文:高畠麻子(『風景によせて2021 かわのうち あわい』評)

高畠華宵大正ロマン館主任学芸員で、とうおんアート・ラボ副代表の高畠麻子さんに、東温市の河之内で行なわれた“とうおんアートヴィレッジフェスティバル2021参加作品『風景によせて2021 かわのうち あわい』”の評論を寄稿いただきました。

下記、寄稿文です。


「まれびと」としてのソノノチ

私は普段は東温市にある高畠華宵大正ロマン館という美術館で学芸員として働きながら、「とうおんアート・ラボ」(以下、アート・ラボ)という東温市の歴史・文化・アートに関わる活動をする市民グループに所属している。アート・ラボとソノノチが最初に出会ったのは、2021年6月21日(月)の夜。アート・ラボのメンバーでもあり、今回のソノノチ 風景演劇の影の立役者でもある東温市地域おこし協力隊員の田中直樹さんから急な呼び出しから始まった。

アート・ラボは、東温市が2017年から「アートヴィレッジとうおん構想」を掲げてから、その方針や内容に何となくワクワク・モヤモヤしていた市民が、何となく集まって始まったグループだ。文化政策の勉強会をやったり、コロナ禍でのアーティスト紹介の動画を作ったり、コロナで中止となった獅子舞芸能についての展覧会を企画したり、アートヴィレッジという看板が掲げ続けられるよう、市民目線で東温市を見つめ、紹介してきた。偉そうに言えば「中間支援」的な立ち位置で、市民が自律的にアートヴィレッジに関わる方法を現在も模索している。
そんな活動の中で見えてきたのは、「アート」という言葉で括られる一過性的な(ものが多い)現代の表現行為と、東温市という地域やそこに生きた人々が長い時間をかけて紡いできた行為(祭礼、風習、景観など)を、それぞれ異質の行為と考えてしまうと、本当のアートヴィレッジは誕生・成立しないのではないかということである。

たくさんのアートイベントが行われることだけがアートヴィレッジ構想の目的ではないであろう。普段はアートに関わっていなかった市民が、何かのきっかけで地域の歴史や文化の営みに目を向け、文化の継承・破壊・創造という行為に意識を向けること、そしてそのきっかけがアート表現でありアート鑑賞であることが、アートヴィレッジを構想する原理であるべきである。

と、偉そうに書いてきたが、実際のところ、2021年のアート・ラボは行き詰まっていた。勉強会、動画配信、展示企画など色々なイベントや活動を行なっては来たが、それがどこに行くものなのか、何とつながるものなのかがいまひとつ判然とせず、アート・ラボとしての活動の根幹や方針をもう一度考え直す時期に来ていた(と個人的には感じていた)。実のところ、アートヴィレッジ構想というあやふやな言葉や現実に少々嫌気がさしていた私は、6月21日のソノノチとの初顔合わせの日、そんな日頃の迷いや不平不満を口にしていたのであった。

複数回にわたる滞在中、ソノノチの人々が何を見て、誰と話し、何を思い、どのように作品が作られていったのかは全く知らない。しかし公演直前の約10日にわたる滞在中(私は食事作りに何度か顔を出すだけであったが)、彼らの熱量が変わっていくのが感じられた。山奥の集会所で滞在・制作をしながら、日々現場に向かい、帰ってきてはプランを練り直す、そんな作業の連続だったのであろう。彼ら自身が東温市の山里の風景に馴染んでくるにしたがい、地域の人々や風土もまた彼らを受け入れていった。ソノノチは、合計3回の公演を見た人々の心に様々な思いを呼び覚まし、そして去っていった。

そんなソノノチの存在を、ここでは「まれびと」と重ねてみたい。
よく知られているように「まれびと」とは民俗学者・折口信夫が古代の来訪神の存在を説明するために昭和4年に唱えた概念である。そもそも日本には、村の共同体の外(異界)から来る客をもてなす風習があり、この異人を神または霊的な存在として信仰していたという。「まれびと」は一年のうちある一定期間、村に滞在し、村人を祝福し、共同体に活力を与える。その言葉は文学となり、その舞は芸能として共同体に浸透していったという。やがて神だけではなく、各地を移住する芸能者や遊行者までもが「まれびと」として歓待されるようになったと言われている。

ソノノチをいわゆる民俗学的な意味での「まれびと」と同一視するのは無理があるが、しかし彼らの取り組み、つまり「外界から訪れ」「村に滞在し」「村人と交流(村人が歓待)し」「芸能によって共同体に新しい活力を与える」という行為は、古来より「まれびと」がなし得たそれと重なる。何よりソノノチの公演が惣河内神社から始まり、村の集落全体が見渡せる場所へと広がっていったということが、ソノノチと「まれびと」の相似性を連想させる象徴的な事象に思えるのだ。

ソノノチによる滞在型制作という試みをこれほど大仰にとらえたくなるのは、私がアート・ラボの活動を通じて感じてきたことと無関係ではない。前述のように地域にアートが根付いていくためには、一方通行的な興行だけでは不可能である。地域が持つ文化的資源(財産)に自覚的になり、それを市民が享受し、次世代へとつなげるためには、常に新しい価値観と対峙し続ける必要がある。歌舞伎や能などの伝統芸能や、各地の祭礼や地域芸能などの例を挙げるまでもなく、文化は常に変化し続ける。そのために必要なものの一つが「アート」的な行為、つまり新しい価値観への気づきを促す表現と場の創造と考える。

ソノノチの来訪が東温市に残したもの、「まれびと」が見せた風景をどのように文化として継承していくのか、私たちには大きな課題が与えられた。それを心に刻みながら、「まれびと」の再訪を願わずにはいられない。

高畠麻子(高畠華宵大正ロマン館主任学芸員/とうおんアート・ラボ副代表)


高畠 麻子(タカバタケ アサコ)さん 略歴

高畠華宵大正ロマン館主任学芸員。
1990年の開館以来、高畠華宵を中心とする大正時代の大衆文化・イマジュリィ(図像)文化について、さらにそれらと現代文化とのつながりについて、様々な切り口の展覧会を通して考察・紹介をしている。2017年からは美術館と地域をつなぐ活動として「とうおんアート・ラボ」を始動。ワークショップ、勉強会、動画配信、シンポジウムなど様々なアプローチで、地域文化の諸相を模索・発信している。愛媛大学・松山大学非常勤講師。「大正イマジュリィ学会」常任委員・事務局。著書『華宵からの手紙』。

 

※使用画像(撮影:駒優梨香 現像:脇田友)

202204.10

【寄稿】ソノノチ公演に寄せて/文:徳永高志(『風景によせて2021 かわのうち あわい』評)

NPO法人クオリティアンドコミュニケーションオブアーツ代表の徳永高志さんに、東温市の河之内で行なわれた“とうおんアートヴィレッジフェスティバル2021参加作品『風景によせて2021 かわのうち あわい』”の評論を寄稿いただきました。

下記、寄稿文です。


ソノノチ公演に寄せて

公演を月並みな言葉で表現すれば、「アートインレジデンス」と「サイトスペシフィック」ということになろう。
「アートインレジデンス」は全国各地でおこなわれているが、それを引き受ける側が大きな公的施設・組織でない場合、様々な困難がともなう。宿泊先や練習場、食事の手配から、長期間にわたる場合はメンバーのコンディションや天災等々、枚挙にいとまがない。そもそも、多額の費用がかかる。ましてや現在のコロナ禍で手間は倍加している。今回も、大幅な延期のうえ、荒天で初日午前の公演が中止になった。

そうまでして、「アートインレジデンス」を実施する意味はどこにあるのか。第一の目的は、アートにしかできない交流であろう。
アーティストは地域の人々と生活を通して交流し、地域の人々の営みからさまざまな価値を吸収する。地域の人々は、日常にない言わば異物を受け入れ、常とは異なる世界観を眼前にする。それは、座学では体得できないアートならではの化学反応を引きおこす。今回は、地域の人々が神社と棚田という祈りと生産の場を会場として提供し、パフォーマンスを許した。「とうおんアートラボ」のメンバーを中心にボランティアで炊き出しをおこない、当日は多くの近隣住民が来場した。会場では、「わざわざ京都から来たんだって」「やっぱり若い人たちのやることにはついていけない」「これはお芝居なんだろうか」等々、さまざまな声が聞こえてきたが、彼らの公演中の集中は、異物を真剣に受け止めた証でもあった。

第二は、その場所でしか生まれ得ない作品そのものの価値である。
これは、「風景演劇」を志す「ソノノチ」の独壇場であった。まず、ここにしかない場所の発見、そして、その祈りと生産の場の意味を彼らの視点で掘り下げ、美しい作品が紡がれた。それは、そのまま「サイトスペシフィック」にもつながるもので、地元の人々にとっては当たり前の景色が、貴いものに変容する瞬間が生み出されていた。
市外からの鑑賞者である私も、この集落をもっと知りたくなり、終演後、近隣の「雨滝」を訪ねた。雨乞いをしたという由来を学び水音に浸る一方、休憩所の公民館に掲示されている子供たちが作成した南海大地震発生時の被害予想と避難方法のポスターに見入る自分がいた。この美しい場所が中央構造線のほぼ真上にあることを知り、はからずも、人が生きることの意味と困難さに思いをはせたのである。

アートインレジデンスの成果を十分に感じた一方で、作品には若干の不満がのこる。
彼らが、パフォーマーとして十分に研ぎ澄まされた身体を持ち、場所を知り丁寧な作品作りを心掛けていることが理解できるからこそ、細かいことが気になる。
まず、神社での宗教性を帯びたパフォーマンスにおける衣装の足元である。色には留意されてはいたが、靴ではなく足袋や裸足ではいけなかったのか。観客の至近で演じられることもあり目が向いてしまう。次に、第一会場(神社)から第二会場(棚田)への移動方法である。日常と変わらぬ移動は、パフォーマンスの世界から否応なしに現実に引き戻され、意識は分断される。これは野外公演につきものの安全管理と作品作りのせめぎあいの結果であろうが、作品に沿った手法で案内し、移動することは不可能だったのか。そして、風景と来場者の多くが経験してきたであろう感情に寄り添いすぎる音楽である。これは、「その後(のち)、観た人を幸せな心地にする作品をつくる」というアーティストグループ創設時の理念に沿ったものだとも言えようが、この作品でしか得られない感銘とは少し距離があると感じた。最後の、終演時の一礼で、私たちの意識はまたも分断され、「そののち」に思いをはせる機会を失う。静かに姿を消すなど、もっと演劇的な終わり方はできなかったのか。無言ですすめられるので、なおさらである。
おそらくは、日ごろパフォーミングアーツを観慣れない受け手に対するサービスもあったろう。そのことは、観足りない、もっと観たいという意識をネガティブなことと感じてしまう一因になってもいると言えまいか。

幾重にも困難な状況のなかで、演劇の美質を存分に感じさせてくれただけに、無いものねだりの贅沢な要求をしてしまう。
それゆえに、もう一度この地で、また他の地で、紡ぎだされた作品を観たいと思う。

徳永高志(NPO法人クオリティアンドコミュニケーションオブアーツ代表)


徳永 高志(トクナガ タカシ)さん  略歴

1958年岡山市生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文化政策学)。
日本近代史研究を礎に、19世紀末に成立した地域の芝居小屋研究に取り組み、文化施設の歴史や運営にも関心を持つ。
松山東雲女子大学教員を経て、2004年に、アートと地域の中間支援を目指すNPO法人クオリティアンドコミュニケーションオブアーツ(通称QaCoA)を設立。茅野市民館コアアドバイザーもつとめる(2005~2021年)。
現在、内子座、町立久万美術館、淡路人形座のほか、伊予市、松山市、神戸市、飯塚市の文化施設計画や文化政策にかかわる。
慶應義塾大学大学院アートマネジメントコース非常勤講師。
著書に、『芝居小屋の二十世紀』(1999年、雄山閣)、『公共文化施設の歴史と展望』(2010年、晃洋書房)、『内子座』(2016年、学芸出版社)など。

 

※使用画像(撮影:駒優梨香 現像:脇田友)

202203.26

【風景演劇 応援メッセージ】鈴木美恵子 氏からのメッセージ

東温で延べ約一ヶ月間アーティストが滞在しながらリサーチと作品創作を行ない、東温の河之内地区にある棚田と豊かな水のある風景を舞台に、この瞬間・この場所でしか見られないパフォーマンス作品を発表する今回の“風景演劇プロジェクト『風景によせて2021 かわのうち あわい』”。 開催にあたり、愛媛県の民間劇場「シアターねこ」の代表を務め、愛媛の演劇文化を支えられてきた鈴木美恵子氏より今回の滞在アーティスト“ソノノチ”の皆さんに応援メッセージをいただきました。 今回の東温初のアーティスト・イン・レジデンスに向けて、何度も“ソノノチ”の皆さんとお会いいただき、お話やご相談にのっていただいた鈴木氏からのメッセージです。 未だ体感したことのないような演劇「風景演劇」に期待を寄せていただいたメッセージとなっています。 ぜひご一読ください。

202203.25

【風景演劇 応援メッセージ】植田良子 氏からのメッセージ

東温で延べ約一ヶ月間アーティストが滞在しながらリサーチと作品創作を行ない、東温の河之内地区にある棚田と豊かな水のある風景を舞台に、この瞬間・この場所でしか見られないパフォーマンス作品を発表する今回の“風景演劇プロジェクト『風景によせて2021 かわのうち あわい』”。 開催にあたり、香川県にて多岐にわたって演劇制作活動をされている植田良子氏から今回の滞在アーティスト“ソノノチ”の皆さんに応援メッセージをいただきました。 全国各地から香川にアーティストの受け入れもされている植田氏から今回の東温初のアーティスト・イン・レジデンスについて、四国において他地域のアーティストが作品を創作することについてなどを踏まえたメッセージとなっています。 ぜひご一読ください。

202203.25

【一部公演中止のお知らせ】風景によせて2021 かわのうち あわい

明日より上演予定の東温市初となるアーティスト・イン・レジデンス企画『風景によせて2021 かわのうち あわい』ですが、3月26日(土)の11:00回のみ、上演会場周辺が強風と雨予報で、予報からの変化の見込みが薄いことから、荒天中止を決定しました。 なお、同日17:00の回は、上演を予定しております。 荒天中止となる回にご来場を予定をしてくださっている皆さまには大変申し訳ございません。 3月26日(土) 17:00- 開演 3月27日(日)11:00-/17:00- 開演 こちらのステージは上演を予定しています。 ▼ご予約はこちら https://www.quartet-online.net/ticket/tavf20220326 なお上演中止となった時間に合わせて、「惣河内神社そばの無料休憩所(河之内公民館)にて、滞在アーティストであるソノノチメンバーが今回の滞在制作と風景演劇作品についておしゃべりする回」を1時間程度行います。 こちらの模様は、11:00ごろからの1時間弱、ソノノチのインスタライブにて配信も行う予定です。 ◆ソノノチInstagram◆ https://www.google.com/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&cad=rja&uact=8&ved=2ahUKEwjfksjWoeH2AhWojVYBHVCHCZ0QFnoECBAQAQ&url=https%3A%2F%2Fwww.instagram.com%2Fsononochi%2F&usg=AOvVaw1JyHSQbWl5ES44vAxGRQzE

202203.22

【風景演劇 応援メッセージ】鈴江俊郎 氏からのメッセージ

東温で延べ約一ヶ月間アーティストが滞在しながらリサーチと作品創作を行ない、東温の河之内地区にある棚田と豊かな水のある風景を舞台に、この瞬間・この場所でしか見られないパフォーマンス作品を発表する今回の“風景演劇プロジェクト『風景によせて2021 かわのうち あわい』”。 開催にあたり、愛媛県西条市に在住の劇作家であり演出家の鈴江俊郎氏から今回の滞在アーティスト“ソノノチ”の皆さんに応援メッセージをいただきました。 京都から移住し、愛媛で活動されている鈴江氏と京都から愛媛に滞在しているアーティスト“ソノノチ”。滞在や移住、来訪といった人と土地、人と人の交流や間接的な関係性が生まれている今回のアーティスト・イン・レジデンス企画。 京都と愛媛という二つの土地の偶然の繋がりから生まれた応援メッセージをぜひご一読ください。

202203.16

【出演者交代のお知らせ】風景演劇プロジェクト『風景によせて2021 かわのうち あわい』

3 月 26 日-27 日上演 『風景によせて 2021 かわのうち あわい』に出演を予定してお りました日置あつしさんですが、体調不良が重なり、静養の必要があると判明致しま した。 この間、ご本人とも協議を行った結果、今回はキャスト交代をさせて頂くことになりまし た。ご出演を楽しみにされていたお …

202203.07

【開催中!】『風景によせて2021 かわのうち あわい』もうすぐ展

3月26・27日に東温市の風景の中で上演するパフォーマンス公演『風景によせて2021 かわのうち あわい』に先立ち、東温での滞在制作やこれまでのソノノチの風景演劇の歩みを展示する「『風景によせて2021 かわのうち あわい』もうすぐ展」を開催! 伊予鉄道 横河原駅近くの誰でも気軽に入れるコミュニティスペース「横河原ぷらっとHOME」の一角にて、今月末に上演する本作品に向けての歩みをご覧いただけます。 展示期間は3月3日(木)から3月31日(木)まで!ぜひご覧ください。 ごあいさつ======== 旅するパフォーミング・アーツカンパニー、ソノノチ代表の中谷和代です。 私たちは、昨年の4月から約1年間、地元京都から東温市へ通い、リサーチとクリエイションを続けてきました。 そして3月26日、27日に東温市河之内地域に実在する風景を舞台とした野外パフォーマンス作品を上演させていただくにあたり、皆さんに作品のことをご紹介するための展示をする運びとなりました。 普段はお見せすることのない作品づくりのプロセス(どのようにつくられていくかの過程)を、映像やテキストを通して見ていただけます。この展示を通して、少しでも多くの方に私たちの活動を知っていただけますと幸いです。 ======== ◆展示企画詳細◆ https://art-village-toon.jp/event/post-1757/ 主催|ソノノチ、東温市移住定住促進協議会 共催|多世代交流拠点利用者協議会 ekit、東温市 企画制作|NPO法人シアターネットワークえひめ 令和3年度 文化庁 文化芸術創造拠点形成事業 とうおんアートヴィレッジフェスティバル2021 参加作品

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